掛け軸の巻き方・しまい方のお作法を解説

掛け軸には年間を通して使用できる常時掛のほかにも、用途に合わせた慶事掛や佛事掛、季節ごとに掛け替える季節掛などさまざまな種類があります。季節を問わずに飾れる常時掛を使用している場合も、気分転換に新しい掛け軸へ掛け替えたくなることもあるのではないでしょうか。 新しい掛け軸を掛けた後に考えるべきことのひとつが、これまで使用していた掛け軸のしまい方です。この記事では、掛け軸を傷めないために知っておきたい、正しい巻き方やしまい方のお作法を紹介します。

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掛け軸の正しいしまい方を理解するために知っておきたい用語

掛け軸の正しい巻き方やしまい方を解説する前に、覚えておきたい道具や部材の呼び方を説明します。万が一掛け軸が損傷したときも、道具や部材ごとの名称を知っていると、修理業者へ状態が伝えやすくなるため便利です。

掛け軸で呼び方を覚えておきたい道具と部材は、以下の6つです。

・矢筈(やはず)

・表木(ひょうもく)

・風帯(ふうたい)

・掛緒(かけお)

・巻緒(まきお)

・巻紙(まきがみ)

ここでは道具と各部材の特徴を紹介します。

矢筈

矢筈(やはず)は、掛け軸を掛けたり取り外したりするときに使用する棒状の道具です。先端が二股に分かれており、掛け軸の上部にある吊るし紐(掛緒)を引っかけやすいように、分かれた先端部分が、さらに小さな二股状になっているタイプもあります。

掛け軸を高い位置にある金具へかけるとき、踏み台を使わずに掛けるための道具です。手で直接かけられる高さに金具がある場合も、品良く飾るためには矢筈を活用すると良いでしょう。

表木

表木(ひょうもく)とは、掛け軸の一番上についた木製の棒のことです。八双(はっそう)とも呼び、横から見ると半円形をしていることが分かります。江戸時代中期より以前の掛け軸の中には、まれに表木が三角形のものもあります。

風帯

風帯(ふうたい)とは、掛け軸の上から垂れている二本の細長い布状の飾りをさします。伝統的な織物を使用しており、どのような色や模様の風帯を使用するかで掛け軸の印象が変わるため、重要な装飾のひとつです。

掛け軸は一般的に大和表装(三段表装、丸表装(袋表装)、佛表装の3種類があり、種類によっては風帯がない場合もあります。風帯がある場合も同じ裂地を使用する部分が異なるなど、特徴はさまざまです。

掛緒

掛緒(かけお)は、掛け軸を飾るときに金具へ引っかけるための紐です。一般的な紐やロープではなく、正絹あるいは絹に似た正絹代用と呼ばれる生地で作られています。掛け軸上部の表木に打ち込まれた、鐶(かん)と呼ばれる金属製の輪に結んで使用します。

さまざまな色や柄があり、風帯と同じくどの掛緒を選ぶかで掛け軸の印象が大きく変わる部分です。見た目の繊細さに反して、意外と強靭な紐でもあります。

巻緒

巻緒(まきお)は、掛け軸を巻くときに留め具として使用する紐のことです。巻緒の巻き方は複数のパターンがあり、簡易的な方法でも正しい手順を踏めばすっきりとした見た目に整います。

床の間にかけているときは見えにくくなりますが、巻緒も風帯や掛緒と同じく、絵柄などに合わせた色や柄のものが選ばれています。

巻紙

巻紙(まきがみ)は、掛け軸をしまうときに巻緒の下に当てる紙です。巻紙をつけずに巻緒を使用すると、掛け軸本体に跡が残ってしまう可能性があるため、巻紙を間に挟んで防ぐ必要があります。

巻紙は細長く白い紙で、掛け軸のサイズなどによって大きさは異なります。掛け軸を購入したときに必ず付属しているため、誤って捨てないよう掛け軸用の桐箱の中などに保管しておきましょう。

出していた掛け軸をしまうときも、専用の巻紙が保管されていないか、桐箱の中などを探してみてください。

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掛け軸の正しい巻き方を解説

上記で解説したもののほかにも、掛け軸にはさまざまな部材が使用されています。中には正しい取り扱い方法や保管方法を知らなければ、傷みやすい部分もあるため、飾るときやしまうときは十分に注意してください。

掛け軸のしまい方は、単純に巻いて桐箱に収めれば良いものではありません。保管中に傷まないよう、正しい巻き方でしまうことが重要です。

ここでは。掛け軸をきれいな状態で保管するために覚えておきたい、正しい巻き方を解説します。

左右の風帯を表木に沿って折りたたむ

矢筈を使って金具から掛け軸を取り外したら、まずはホコリを払ってから上部についている風帯を表木に沿って折りたたみます。風帯の根本部分で真横に折りたたみ、左側が下、右側が上の状態で重なるようにしてください。

風帯は掛け軸本体に貼り付けられているわけではなく、表木から垂らされている状態です。折りたたまずに掛け軸を巻くと巻グセがついたり、シワが寄ったりしてしまうため、必ず表木に沿わせて折りたたんでおきましょう。

折りたたんだとき、風帯が掛け軸からはみ出すほど長い場合は、はみ出ている部分を内側へ折り返します。

巻紙を上下の風帯の間に差し込み、掛け軸を保護

掛け軸が収納されていた桐箱から巻紙を取り出し、重ねた左右の風帯の間に差し込みます。このとき、巻紙が掛け軸の中央にくるように、表木や巻緒の位置を参考に微調整しておきましょう。ただし巻緒の巻き方によっては、若干左右どちらかにずらしたほうがきれいな仕上がりになります。

巻紙は巻緒から掛け軸本体を守るために、適度に厚みのある紙が使用されています。専用の巻紙を誤って紛失したときの代用品は、三椏(みつまた)製の紙や雁皮製の紙がおすすめです。

巻緒で緩まないように巻く

風帯や巻紙の準備ができたら、掛け軸本体をゆっくりと巻いていきます。巻紙を挟んだ風帯などが緩まないよう、指でしっかりと押さえながら巻いていくのがポイントです。

掛け軸を傷めないためには、巻くときの力加減にも注意しなくてはなりません。きつく巻きすぎると傷んだり破れたりするため、緩めに巻きましょう。

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掛け軸を収納する際に知っておきたいこと

巻緒で留めた掛け軸は、保管中も傷まないように適切な環境にしまう必要があります。

最後に、掛け軸を収納する際に知っておきたいポイントを2つ紹介します。

掛け軸を桐箱に収納する3つの方法

掛け軸の収納は、購入時に入っていた桐箱を使用しましょう。桐箱を使用した収納方法は、以下のとおり3つの方法があります。

1.桐箱のみに収納する方法

桐箱は防湿・防虫効果に優れているため、掛け軸の天敵である湿気や虫害から守ってくれます。軽量ながら丈夫な桐箱は耐火性もあり、掛け軸をはじめとした美術品や骨董品の保管に最適な素材です。

2.桐箱と塗箱で二重箱収納する方法

桐箱に掛け軸を収納してから、さらに塗箱に収納する方法です。漆は昔から防虫・防腐効果があるといわれており、桐箱とあわせて使用することでより安全に掛け軸を保管できます。

3.桐の芯を使用した太巻き収納

掛け軸を巻くときに、芯として桐の太い棒を使用する方法です。桐の芯を入れることで掛け軸が折れにくくなります。巻いた後の掛け軸は、通常と同じく桐箱に収納します。

防虫香を使う場合は自然成分のものを

虫害を防ぐ方法として、桐箱収納の他に防虫香を使用する方法もあります。掛け軸を長持ちさせたい場合は、化学成分のものではなく『自然成分の防虫香』がおすすめです。化学成分の防虫香は、掛け軸にシミができることがあるため、注意が必要です。

和室の些細なお困りごと、なんでもご相談ください

掛け軸は、荘厳な書であるため、人の気持ちや身を引き締めてくれます。また、四季折々の絵柄で和室を華やかにしてくれます。しかし、掛け軸に最適なしまい方を怠ると、シミや破れなどのトラブルに見舞われかねません。

お気に入りの掛け軸にトラブルが生じた場合や、新調を検討している方は、ぜひ「金沢屋」へご相談ください。

金沢屋は襖(ふすま)・障子・網戸・畳の張替えの専門店ですが、掛け軸など和室全般のご相談を受け付けています。全国に300店舗構えており、どの地域でも対応可能です。

和室のことなら何でも、まずは「金沢屋」へご相談ください。

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まとめ

掛け軸は代々受け継がれているものもあり、丁寧に取り扱いたいものです。しまい方ひとつとっても、正しい巻き方や保管方法でなければ、虫害など修繕が必要となるような傷みにつながることがあります。

掛け軸の取り扱い方法で困っていたり、襖や障子との調和が取れずに悩んでいたりと、掛け軸や和室に関する困りごとは、金沢屋にお任せください。修繕はもちろん、オリジナルデザインの掛け軸の新調まで、幅広くサポートしています。